上海万博の開幕を控え、中国政府は27日、HIV陽性者に対する入国禁止規制の撤廃を発表した。《感染者の入国禁止を撤廃 中国、エイズやハンセン病》という共同通信配信の記事によると、《中国政府は、入国管理法実施細則でHIV感染者やハンセン病患者の入国を禁止していたが、細則を改定した。これまで、短期滞在者は入国時にHIV感染の有無を申告し、長期滞在者は入国前に血液検査による証明が必要とされていた》という。
当ブログでもこれまでに何回か書いてきたが、HIV陽性者に対する渡航規制、入国規制は公衆衛生上、何の効果もない。感染症対策やHIV/エイズ対策の専門家は世界中で、20年以上にわたってこのことを繰り返し指摘してきた。国連合同エイズ計画(UNAIDS)や国際エイズ学会(IAS)も、HIV陽性者の人権を侵害し、HIV陽性者や感染の高いリスクにさらされている人たちに対する社会的な偏見や差別を助長することで感染予防対策にも大きなマイナスになるとして規制撤廃を各国に求めてきた。
そうした働きかけが実を結び、今年1月には米国と韓国で規制が撤廃されたとする国連の歓迎声明も出されている。米国は撤廃手続きを完了し、差別的規制を持つ先進国という不名誉な地位から何とか脱したようだが、韓国の方は、実はこれまでの規制と中身は何ら変わっていないことが指摘されている。つまり、国連のぬか喜びにもかかわらず、韓国は依然として差別的な入国規制が残る国にとどまっているということだ。それでも規制は撤廃したと言い張っるようだと、釜山で開催が予定されている来年のアジア太平洋地域エイズ国際会議は韓国内で開けなくなる可能性もある。韓国政府には決断が迫られているというべきだろう。
中国はどうか。HIVに感染した人の入国を禁止する規制が設けられたのは約20年も前のことで、報道によると、中国政府当局者は、HIVに関する非常に限られた知識しかなかった時代に、その知識に基づいて定められた規制だったと説明しているという。
実は中国は2007年10月の時点ですでに入国規制撤廃の意向を表明している。規制の存在により、中国で開催するHIV/エイズ関係の国際会議などにHIV陽性の出席者が入国できなくなってしまうという事態に直面し、意思表示を迫られていたからだ。これも中国政府がエイズ対策に本腰を入れるようになった結果であり、進歩といえば進歩なのだが、表明しただけで規制そのものはいままで撤廃されずに残っていた。
上海万博直前になっての今回の発表には、やや奇異な印象も受ける。政府や党といった公権力の力が強い国なので、撤廃したと発表したのなら、撤廃されたことは間違いないのだろうが、上海万博の開催で世界の目が中国の国内状況に注がれている時期である。とりあえずかたちを整えておこうと行ったうわべだけの撤廃であるのか、ないのか。このあたりはもう少し様子を見ないと判断できない。
より懸念されるのは、こうした表面的な決定の背後で、HIV陽性者を取り巻く中国国内の人権状況がいっこうに改善されないおそれもあることだ。中国・河南省の女医、高耀潔さんは、1990年代後半から2000年代の前半にかけて衛生管理のずさんな売血によるHIV感染の悲惨な実態を明らかにしたことで知られている。その高さんが昨年夏、中国から秘かに米国に亡命した。中国情報に詳しい産経新聞山本秀也記者が昨年12月、ワシントン特派員だった当時に書いた記事には次のように記されている。
《高さんによると、河南省内の自宅の電話が今年5月に切断されたことで危険を察知し、四川、広東各省に逃亡。さらに、四川大地震の被害実態を告発した活動家の訴追を知って最終的に出国を決意し、8月に米国へ渡った。米国では、中国民主化組織「チャイナ・エイド」(ボブ・フー会長)の助けを受け、テキサス州内で情勢を静観していた》
そもそも高さんは、河南省のHIV感染の状況を独自に調べ、内外に売血スキャンダルを告発した医師であり、《活動は国際的に高く評価された半面、国内では実態隠しを図る中国当局により、行動監視や外部との接触制限などを受けてきた》という。それでも頑張って中国国内にとどまっていたのに、昨年になって82歳という高齢で国を捨てる決断を選択した。中国にとどまっていたのでは身の安全すら保証されないと覚悟したからだろう。
2008年北京五輪からリーマンショックを経て2010年上海万博に至る世界経済の「危機の2年間」は、その危機脱出を中国の経済成長力に頼るかのようなマインドを世界に広げた。北京五輪前の世界と、現在の世界とでは、中国を見る目も大きく変わり、米国と並べてG2などと呼んでいる始末である。それでいいのかという根本的な疑義を中国のHIV/エイズの流行は提起しているようにも思える。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は中国の発表を受け、その日のうちにさっそく「applaud(賞賛)」するという声明を出した。事前に中国当局との打ち合わせを経た上での声明だとは思うが、こんなところでぬか喜びしていられるような時期なのだろうか。そんな疑問もまた、私にはぬぐえない。
当ブログでもこれまでに何回か書いてきたが、HIV陽性者に対する渡航規制、入国規制は公衆衛生上、何の効果もない。感染症対策やHIV/エイズ対策の専門家は世界中で、20年以上にわたってこのことを繰り返し指摘してきた。国連合同エイズ計画(UNAIDS)や国際エイズ学会(IAS)も、HIV陽性者の人権を侵害し、HIV陽性者や感染の高いリスクにさらされている人たちに対する社会的な偏見や差別を助長することで感染予防対策にも大きなマイナスになるとして規制撤廃を各国に求めてきた。
そうした働きかけが実を結び、今年1月には米国と韓国で規制が撤廃されたとする国連の歓迎声明も出されている。米国は撤廃手続きを完了し、差別的規制を持つ先進国という不名誉な地位から何とか脱したようだが、韓国の方は、実はこれまでの規制と中身は何ら変わっていないことが指摘されている。つまり、国連のぬか喜びにもかかわらず、韓国は依然として差別的な入国規制が残る国にとどまっているということだ。それでも規制は撤廃したと言い張っるようだと、釜山で開催が予定されている来年のアジア太平洋地域エイズ国際会議は韓国内で開けなくなる可能性もある。韓国政府には決断が迫られているというべきだろう。
中国はどうか。HIVに感染した人の入国を禁止する規制が設けられたのは約20年も前のことで、報道によると、中国政府当局者は、HIVに関する非常に限られた知識しかなかった時代に、その知識に基づいて定められた規制だったと説明しているという。
実は中国は2007年10月の時点ですでに入国規制撤廃の意向を表明している。規制の存在により、中国で開催するHIV/エイズ関係の国際会議などにHIV陽性の出席者が入国できなくなってしまうという事態に直面し、意思表示を迫られていたからだ。これも中国政府がエイズ対策に本腰を入れるようになった結果であり、進歩といえば進歩なのだが、表明しただけで規制そのものはいままで撤廃されずに残っていた。
上海万博直前になっての今回の発表には、やや奇異な印象も受ける。政府や党といった公権力の力が強い国なので、撤廃したと発表したのなら、撤廃されたことは間違いないのだろうが、上海万博の開催で世界の目が中国の国内状況に注がれている時期である。とりあえずかたちを整えておこうと行ったうわべだけの撤廃であるのか、ないのか。このあたりはもう少し様子を見ないと判断できない。
より懸念されるのは、こうした表面的な決定の背後で、HIV陽性者を取り巻く中国国内の人権状況がいっこうに改善されないおそれもあることだ。中国・河南省の女医、高耀潔さんは、1990年代後半から2000年代の前半にかけて衛生管理のずさんな売血によるHIV感染の悲惨な実態を明らかにしたことで知られている。その高さんが昨年夏、中国から秘かに米国に亡命した。中国情報に詳しい産経新聞山本秀也記者が昨年12月、ワシントン特派員だった当時に書いた記事には次のように記されている。
《高さんによると、河南省内の自宅の電話が今年5月に切断されたことで危険を察知し、四川、広東各省に逃亡。さらに、四川大地震の被害実態を告発した活動家の訴追を知って最終的に出国を決意し、8月に米国へ渡った。米国では、中国民主化組織「チャイナ・エイド」(ボブ・フー会長)の助けを受け、テキサス州内で情勢を静観していた》
そもそも高さんは、河南省のHIV感染の状況を独自に調べ、内外に売血スキャンダルを告発した医師であり、《活動は国際的に高く評価された半面、国内では実態隠しを図る中国当局により、行動監視や外部との接触制限などを受けてきた》という。それでも頑張って中国国内にとどまっていたのに、昨年になって82歳という高齢で国を捨てる決断を選択した。中国にとどまっていたのでは身の安全すら保証されないと覚悟したからだろう。
2008年北京五輪からリーマンショックを経て2010年上海万博に至る世界経済の「危機の2年間」は、その危機脱出を中国の経済成長力に頼るかのようなマインドを世界に広げた。北京五輪前の世界と、現在の世界とでは、中国を見る目も大きく変わり、米国と並べてG2などと呼んでいる始末である。それでいいのかという根本的な疑義を中国のHIV/エイズの流行は提起しているようにも思える。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は中国の発表を受け、その日のうちにさっそく「applaud(賞賛)」するという声明を出した。事前に中国当局との打ち合わせを経た上での声明だとは思うが、こんなところでぬか喜びしていられるような時期なのだろうか。そんな疑問もまた、私にはぬぐえない。


by 宮田一雄
3336 ホイットニー・ヒュース…