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2380 08憲章とHIV陽性者入国規制撤廃 エイズと社会ウエブ版26

2010/04/29 11:23

 

 

 上海万博開幕の直前に中国がHIV陽性者に対する入国規制を撤廃した。なぜこの時期なのかということに関する続報です。4月28日のAP通信の記事では、最後の方に《中国は先月、文学祭に参加するため入国を希望したHIV陽性の作家、ロバート・デセイ氏に対するビザ発給を拒否した》と書かれている。

  直接的にはこの「事件」がきっかけだったようだ。2003年にノーベル文学賞受賞した南アの作家、J.M.クッツェー氏、映画「シンドラーのリスト」の原作小説の作者であるオーストラリアの作家、トーマス・キーニーリー氏ら著名な作家、文学者約100人が中国の対応を批判し、デセイ氏に公式に謝罪するよう中国政府に求める要望書を発表していたという。

 かなり大きな話題になったニュースのようだが、不覚にも見落としていた。改めてネットで検索してみると、 朝日新聞のサイトには3月12日付の北京発の記事で次のように報じられている。

 《関係者の話や報道によると、作家はロバート・デセイさん(66)。12日の上海での国際文学祭に参加するために豪州で中国のビザを申請したが、認められなかった。中国はHIV感染者の入国を原則として認めていないが、デセイさんは、ビザ申請書に自身がHIV感染者だと明記していた》

 中国の対応に対し《デセイさんは「つばを吐きかけられたような気持ちだ」と豪地元紙に不満を表明》し、 一方の《中国衛生省の担当幹部は12日、「我々のエイズへの理解が不足していた。このような措置は必要がない。入国禁止条項の削除を検討している」と新華社通信に言明》したという。

 中国の規制では確か、短期滞在者の場合、HIV感染の有無を入国時に申告するということになっていた。つまり、短期滞在なら「原則として」入国時に感染していることを黙っていれば入国できるという「抜け道」もあるような印象だ。ただし、HIV感染にまつわる差別や偏見をなくすためには、こういうところで黙ってしまってはいけないという考え方もある。いわば中央突破である。私のような迂回路好みの軟弱な記者ならいざ知らず、名誉も実績もあり、しかもHIV陽性であることが執筆の大きな支えにもなっているような作家なら黙らないことを選択する人も多いのだろう。

 デセイさんの中央突破を世界の多くの作家が支援した。上海にはオーストラリア作家の代表団の一員として訪問する予定だったことも、注目率を一段と高くしたようだ。こうなると一点突破、全面展開というか。ラグビーでいえば、CTBあたりがタックルされるのは覚悟の上で縦に突っ込み、そこにFW陣のサポートが入って相手ディフェンスラインを深く切り裂いていく。そこでいったんポイントを作り、さらにオープンに大きく回していこう。そんな感じだろうか。南アもオーストラリアも南半球のラグビー強豪国だから、その辺の流れを読む目は作家の皆さんにも十分、養われているのかもしれない。

 メルボルンPEN(オーストラリアのメルボルンにある鎌倉ペンクラブみたいな団体でしょうか)のサイトには、3月13日付けで抗議声明が掲載されている。その一節。

 《中国政府の過酷な検閲に抗して「08憲章」キャンペーンを展開した中国人作家、劉暁波氏の投獄に対し、オーストラリアが抗議を行っていることから、入国拒否は予想されるものではあった。ロバート・デセイ氏は、劉暁波氏に対する検閲と投獄に抗議して代表団を辞退したフランク・ムアハウス氏に代わってフェスティバルに参加する予定だった》
 
http://www.melbournepen.com.au/2010/03/13/china-refuses-visa-for-robert-dessaix/
 
 「08憲章」は中国共産党の一党独裁体制の廃止を求め、中国の著名な民主化活動家、劉暁波氏が起草したといわれる文章だ。劉氏自身は憲章発表直前の2008年12月に身柄を拘束されている。北京市高級人民法院(高裁)は今年2月11日、劉氏に対する国家政権転覆扇動罪の控訴審判決で、懲役11年、政治権利剥奪(はくだつ)2年とした1審判決を支持し、中国の裁判は2審制なのでこの時点で劉氏の判決が確定している。 
 
 報道から判断すると、HIV陽性者の入国禁止の根拠になっていた中国の入国管理法の実施細則は4月19日に改正されているようだ。デセイ氏の問題が表面化して1カ月ちょっとでの改正は、中国政府にとって上海万博前に何とか決着をはかりたい問題だったことをうかがわせる。ただし、前回も書いたように、その背景となる中国の人権事情が改善されたわけではない。むしろ内と外との分断により、外に向かっては開かれた姿を示しつつ、国内ではより強権的な弾圧姿勢を強める可能性もないとはいえない。HIV/エイズ対策のアクティビストたちの受難もそうした文脈でとらえる必要がありそうだ。国際的に見ても、小さな政策の変更にはとどまらない広がりを持ちそうな課題である。
 

カテゴリ: 話題!  > 話のタネ    フォルダ: エイズと社会 国際感染症関係論

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