8日付けのビジネスアイ紙に掲載されたコラムです。
◎HIV感染報告はなぜ減ったか 政治が生んだ大いなる空白
厚生労働省のエイズ動向委員会は5月27日、昨年1年間の新規HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者、エイズ患者報告数をまとめた。感染者1021件、患者431件で、合計は1452件となっている。
感染者は2008年の1126件、07年の1082件に次いで3番目。前年比で約1割減っている。感染者、患者報告の合計も08年1557件、07年1500件に次ぐ第3位だった。エイズ患者報告は過去最高の08年と同数である。
合計報告数は02年以降7年連続で増加していたが、昨年は減少に転じた。この変化をどうとらえるか。少し掘り下げて考えてみたい。
■
動向委員会の患者報告には、エイズ発症以前にすでに感染者として報告されている人は含まれない。つまり、感染者と患者が二重に報告されることは原則としてないので、患者報告はエイズ発症まで長期にわたり感染に気付かなかった人が対象になる。
一方の感染者報告は、エイズ発症以前に感染が分かるケースで、HIV検査を受ける人が増えれば、それに伴い早期に感染が判明する人も増える。検査の普及に力を入れた結果、当面の報告数が増えたとすれば、それは対策の失敗ではなく、成果と考えるべきであろう。逆に感染者報告の減少は対策の失敗を示すサインと考えなければならないケースもある。
検査の普及による感染の早期把握と検査結果に基づく適切な治療の開始。これはHIVに感染している人に必要な治療やケアを受ける権利を保障するだけでなく、社会もしくは一定の集団内での感染の機会を減らすという予防対策上の効果も重視されている。米国の研究では、HIVに感染した人がその事実を知ると、他の人への感染予防に気を配る傾向が強まる。また、臨床分野の研究では、HIVの増殖を抑制する抗レトロウイルス療法(ART)によりHIV陽性者の体内のHIV量が下がれば、性行為などで他の人に感染する確率も大きく下げられることが指摘されている。
感染者報告の減少は、エイズの流行が下火になる前兆なのか。それとも、検査で感染に気付く人が減ったことを示しているのか。後者の場合、感染の機会がその分だけ増え、今後の感染の拡大要因になる。正確な動向の把握には専門家の詳細な分析が必要だが、(1)検査相談件数の推移(2)合計報告数に占めるエイズ患者報告数の割合-という2つの補足的なデータに着目すれば、大きな傾向は把握できそうだ。
動向委員会によると、昨年の保健所などでのHIV検査数は約15万件で、前年より15%ほど減った。相談件数は19万件余で、こちらも前年比15%程度の減。こうした減少傾向には、昨年4月以降の新型インフルエンザの流行の影響が指摘されている。新型インフル対応でHIV検査の受け入れ体制が手薄になり、社会的にも感染症としてのエイズへの警戒感が相対的に薄れてしまったことなどが理由としては考えられる。
■
ただし、HIV感染者報告件数の減少は、新型インフルエンザの流行が下火になった今年に入っても続いており、新型インフルエンザ以外の要因も考える必要がある。
その最有力候補は、情けないほどの政治のリーダーシップの不在だろう。政権交代をもたらした昨年8月の衆院選では、残念ながら各党のマニフェストにエイズ対策に関する記載は一言もなかったし、12月1日の世界エイズデーにすらエイズ対策に言及する閣僚はいなかった。政治家がエイズを課題として黙殺し続けてきたことの影響は小さくない。
全体の報告数に占めるエイズ患者報告数は、03年に34%だったのが、少しずつ減少して08年には27%台に下がっている。それが09年は30%弱に反発した。
その分、HIV感染に気付かずにいる人が増えているのだとすれば、報告数に現れた見かけの減少は、エイズの流行の沈静化を示すのではなく、今後のHIV感染の拡大に対する警告と考えるべきだろう。
厚生労働省のエイズ動向委員会は5月27日、昨年1年間の新規HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者、エイズ患者報告数をまとめた。感染者1021件、患者431件で、合計は1452件となっている。
感染者は2008年の1126件、07年の1082件に次いで3番目。前年比で約1割減っている。感染者、患者報告の合計も08年1557件、07年1500件に次ぐ第3位だった。エイズ患者報告は過去最高の08年と同数である。
合計報告数は02年以降7年連続で増加していたが、昨年は減少に転じた。この変化をどうとらえるか。少し掘り下げて考えてみたい。
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動向委員会の患者報告には、エイズ発症以前にすでに感染者として報告されている人は含まれない。つまり、感染者と患者が二重に報告されることは原則としてないので、患者報告はエイズ発症まで長期にわたり感染に気付かなかった人が対象になる。
一方の感染者報告は、エイズ発症以前に感染が分かるケースで、HIV検査を受ける人が増えれば、それに伴い早期に感染が判明する人も増える。検査の普及に力を入れた結果、当面の報告数が増えたとすれば、それは対策の失敗ではなく、成果と考えるべきであろう。逆に感染者報告の減少は対策の失敗を示すサインと考えなければならないケースもある。
検査の普及による感染の早期把握と検査結果に基づく適切な治療の開始。これはHIVに感染している人に必要な治療やケアを受ける権利を保障するだけでなく、社会もしくは一定の集団内での感染の機会を減らすという予防対策上の効果も重視されている。米国の研究では、HIVに感染した人がその事実を知ると、他の人への感染予防に気を配る傾向が強まる。また、臨床分野の研究では、HIVの増殖を抑制する抗レトロウイルス療法(ART)によりHIV陽性者の体内のHIV量が下がれば、性行為などで他の人に感染する確率も大きく下げられることが指摘されている。
感染者報告の減少は、エイズの流行が下火になる前兆なのか。それとも、検査で感染に気付く人が減ったことを示しているのか。後者の場合、感染の機会がその分だけ増え、今後の感染の拡大要因になる。正確な動向の把握には専門家の詳細な分析が必要だが、(1)検査相談件数の推移(2)合計報告数に占めるエイズ患者報告数の割合-という2つの補足的なデータに着目すれば、大きな傾向は把握できそうだ。
動向委員会によると、昨年の保健所などでのHIV検査数は約15万件で、前年より15%ほど減った。相談件数は19万件余で、こちらも前年比15%程度の減。こうした減少傾向には、昨年4月以降の新型インフルエンザの流行の影響が指摘されている。新型インフル対応でHIV検査の受け入れ体制が手薄になり、社会的にも感染症としてのエイズへの警戒感が相対的に薄れてしまったことなどが理由としては考えられる。
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ただし、HIV感染者報告件数の減少は、新型インフルエンザの流行が下火になった今年に入っても続いており、新型インフルエンザ以外の要因も考える必要がある。
その最有力候補は、情けないほどの政治のリーダーシップの不在だろう。政権交代をもたらした昨年8月の衆院選では、残念ながら各党のマニフェストにエイズ対策に関する記載は一言もなかったし、12月1日の世界エイズデーにすらエイズ対策に言及する閣僚はいなかった。政治家がエイズを課題として黙殺し続けてきたことの影響は小さくない。
全体の報告数に占めるエイズ患者報告数は、03年に34%だったのが、少しずつ減少して08年には27%台に下がっている。それが09年は30%弱に反発した。
その分、HIV感染に気付かずにいる人が増えているのだとすれば、報告数に現れた見かけの減少は、エイズの流行の沈静化を示すのではなく、今後のHIV感染の拡大に対する警告と考えるべきだろう。


by 宮田一雄
3336 ホイットニー・ヒュース…